郵便局と暴力団にきをつけろ

また更新が空いてしまった…。

前回の「父と話したこと」の続き。

1・17のあとで高層ビルに上って父と話したこと

なのだろうか。

「父は、年をとって、多分いろんなことにも疲れて、すっかり無口になってしまった。」

と書いたのだけど、今も父は健(こうといえるのかどうかは不明だけど)在していて、
うちのすぐ近所に住んでいる。

最近、足が悪くなってなかなか歩けないのだけど、
突然夜中にパジャマとスリッパで脱走したり、転んで保護されたり、なかなか大変である。
歩けないのに、寒い中どこへ行くのよ、おとうさん。

と、聞けば。

「暴力団が追いかけてくるからなぁ」という。

そ、そうなの、お父さん。
若い頃の父は大阪の繁華街で店を経営していたものだから、いろいろあったのだろう。
父には、いろんな語られない物語があって、でも、ちょいちょい昔から小出しにしてくる。
私はその破片を拾い集めて、父の物語を頭の中で作っている。

昨日、昼間に母が不在になる小一時間があって、また脱走したらいけないので
〆切原稿をためにためたPCを持って父の家にいった。

「おー、いらっしゃい」とテレビをみてる父が言う。
(よかった。家にいて。私を認識してくれて。)

ぼんやりニュースを見ながらテーブルでみかんを食べている父の、
少し離れた場所にある座卓にPCを置き、「北朝鮮またミサイル撃ってきたなー」とか
いいながら、仕事をする。

父との会話はぽつぽつと、ニュースの話題を復唱してお互い感想をひとことふたこと。
昔から、そんなものっちゃそんなものだ。

ふと「あ、お父さん、足腫れてるんやって? 見せて」と言ってみる。

「あー、なんかなぁ。はれとる」

靴下を脱がしてみると、めちゃくちゃ腫れている。
どこかに脱そうしたときに転んで、傷がついていたのが化膿したのか、
足首から指の先までぱんぱんで、若干紫がかっている。

やばいやん。

糖尿もあるし、けっこうやばいわ。

数日後に病院を予約しているとはいえ、心配だ。

「痛くないのん?」そういいながら、そっと足に触れてみた。もみもみ。

父の足に触るのって何十年ぶりだろうか? いや、子どもの時べたべたしてたときも
水虫持ちの父の足には触らなかった。

「揉んだらいたい?」と聞く。

「いや、いたない。きもちええ」

あ、そうなん? ということで、もうちょっとモミモミしてみる。

父は黙って、ぼんやりしている。気持ちよさそうだ。モミモミもみ。

 

「しかし、すごい腫れてるなぁ。かわいそうに」

と、発言しながら、私は幼い息子がケガをしたときにいったように
「かわいそうに」とわが父に言ってる自分にけっこうおどろいた。

 

「やっぱりなぁ」と父が言う。

 

「これは郵便局のしわざなんやろ」

 

は?

「せやから、郵便局はなんというかいろいろもっとるやろ。金とか。ほんで、それを
渡さへんようにするために、地面の中になんかうめとるんや。それがまあ出かけたときとかに
足にはいってくんねやろうなぁ。どもしゃあないわ」

 

へ?

 

「ほんま、どもしゃあない」

 

そ、そやね。どもしゃあないね。

父が脱走するのは、郵便局の預金を確認したいからで、
いろいろあった父の人生、それは何かのお守り的行為なのだ。

「そやなぁ。郵便局かー!」

「せやで。ほんま。ああ、ありがとう。気持ちよかったわ」

 

と父がいった。

父にありがとうと言われたのは、いったい何十年ぶりだろうか?
と考えたけど、思い出せない。
いや、普通に「ありがとう」も、言う人なんだけど、

その言葉がなんだかすごく懐かしく、温かく。染みた。

いえいえ、ありがとう、お父さん。変な大変な人生だけど、
優しく私たちを育ててくれて。
暴力団とも面識あったんやろう大変なことを乗り越えて
お父さんとしていてくれて。

まだまだ一緒にいよう。もっと話そう。
郵便局が埋めたようわからんやつを、また一緒に探しに行こう。

父との、ほんの短い会話があったあと、
私の一日は、やたらと特別な日になった。