四つ葉のクローバー

9歳になる娘は、不思議な子だ。

娘は、妊娠8ヶ月目で極低体重児で生まれたが、2ヶ月のNICUを卒業してからは
それはよく寝てよく飲みよく笑い、手がかからない赤ちゃんだった。
抱っこ紐に娘を入れて歩いている時、
私が心の中で鼻歌を歌うと、
娘は声に出してハミングした。
びっくりして顔を見ると、にっこり笑った。

喋るようになるとひょうきんで、世話焼きで、保育園に行ってもすぐに慣れた。
怖いもの知らずで、木や棒があれば、ぐんぐんと高いところに登っていた。
はるか上の方で、逆さまになって開脚をしてどこか遠くをいつまでも眺めていた。
下から眺めているほうは、生きた心地がしなかった。

一輪車をくるくると乗り回し、そのついでに、と言った感じで
ぴょこんと飛び降りると、道脇の草むらに入って、
「はい、はい、はい、はい」
と四つ葉のクローバーを選んで摘んだ。

「え、四つ葉のクローバーってそんなにあるもの?」
「すごいね、どうやって見つけるの?」
「『探偵ナイトスクープ』に四つ葉の声が聞こえるっていう女の人が出てたよ。あなたも聞こえるの?」

そう尋ねられると娘は言った。

「声は聞こえないけど、光って見えるよ」
「みんな見つけられるよ。ないと思っているから、ないの。あると思って見ると、ちゃんと、あるの」

小学校の入学式の日、家を出ると大声で泣き出した。

「学校なんて行きたくない」

と、言って。

「育てやすい子」と思っていたから、私は驚いたけれど、
通い始めて、そりゃあ、そうだよね、と思った。
学校がいけないのでも、先生がいけないのでも、お友達とうまくいかないのでもない。
集団行動ができないわけじゃない。
むしろ、空気を読みすぎて、周りの子が注意をされることさえ自分のことのように飲み込んでしまう。

時間が守れないわけじゃないのに、時間より15分は早く家を出ないと不安になってしまう。

しゅるしゅると肩を落とす娘と手を繋いで学校に向かうとき、
四つ葉のクロバーが光っているのが、娘には見えていない。

本当は登り棒の先まで登って開脚逆立ちをしたいけど、
登り棒の先まで誰が一番早く乗れるか競争をしなくちゃいけない。

声に出さない大切なひとのハミングに合わせて、
小さな声で歌いたいけど、
みんなで大きな声で歌うのは、どうにも楽しくないんです。

それはわがままなのだろうか?
協調性がないということなのだろうか?

娘がもともと持っている繊細の極みのようなキラメキを
いつまでも出来るだけ、大切にして欲しいと、私は思ってしまう。